■大人気「ヘミングウェイ」研究

 数多いモンブランの限定品の中でも、とりわけ1992年に発表された作家シリーズ第一弾のヘミングウェイ(Hemingway)は、爆発的な人気を呼んでいます。『老人と海』でノーベル賞を受賞した偉大なる文豪アーネスト・ヘミングウェイを偲んで発表されたこのモデル。その人気は偶発的なものではなく、歴史に裏づけされ理由があるのです。


●ビンテージモデルからのデザイン・モチーフの流用
 写真Aは、1920〜30年代のレッドペンと呼ばれた万年筆です。米国フロリダ州キーウェストにあるアーネスト・ヘミングウェイの生家を訪ねると、その2階に彼の書斎が当時の状況で再現・保存されています。立派な木製の机上にあるペン皿には、鮮やかな朱色の万年筆が何本も置いてあります。ヘミングウェイが愛用していた朱色のモンブランが、このレッドペンなのです。

 写真Bは、1930年代のマイスターシュテック・モデルですが、どこかで見覚えがありませんか? そうですこのペンの全体的なシェイプとクリップのデザインは、ヘミングウェイと同形のものです。ちなみにこの形状のレッドペンももちろん存在しました。

 つまりアーネスト・ヘミングウェイが最も輝いていた1930年代のふたつの自社のデザインを巧みに融合させ、#149タイプの大きなペン先をセットしたのが、1992年に発売された限定品ヘミングウェイなのです。レッドペンそのままの完全復刻版としなかったことは、「ビンテージモデルからのデザイン・モチーフの流用しつつ、その作家のイメージに近づけるためにアレンジする」という、その後毎年発表している「限定・作家シリーズ」の方向性を決めました。この事は欧米に人口の多いビンテージ・コレクターにも配慮した大英断であったと思います。



写真A: 「レッドペン」              写真B: 1930年代のマイスターシュテック


●手に馴染むバランスの良い万年筆
 ヘミングウェイ万年筆は、全世界で25,000本製造され、日本にも定価80,000円で正規輸入されましたが、現在では中古でも20万円以上の相場となっています。新品には外箱の他、ブック型をした中箱、ブロシュア(ブックレット)などが付属しました。

 太目かつ短めの柄は非常に扱いやすく、また前述の通りレギュラーモデルの#149と同じ大型タイプのペン先がセットされインクの排出も良好で、非常に実用的なペンに仕上がっています。柄の先端にはインク残量を確認できるスリットも入っています。

 シリアルナンバーは、キャップに取り付けられたクリップの台座部分に刻印されており、他の限定モデルとは異なりよく見ないと判読できません。鮮やかな朱色の柄に対し、黒く見える部分はブラウンの梨肌仕上げであり、使用するほどに光沢が出てくる仕上げになっています。控えめな大きさながら平面的に描かれた特徴的なモンブランスターが、その魅力を一層引き立てています。




●一度使うと手放せなくなるボールペン
 ヘミングウェイ・ボールペンは、全世界で30,000本が製造され、日本での正規輸入販売の定価は43,000円でした。製造本数が少ない割には現在でも万年筆ほど高騰しておらず、狙い目的な存在となっています。上半分を回転させてペン先を繰り出す形式で、短めの柄は、至上モンブランが発売したボールペンの中でも一番扱いやすいと言っても過言ではないでしょう。

 シリアルナンバーの刻印やブラウンの梨肌仕上げ、モンブランスターの形状などは、万年筆同様です。



※ヘミングウェイには、メカニカルペンシル(シャープペンシル)は製造されませんでした。
※外箱やブックレットの形状も以降の作家シリーズとは異なります。